『He Who Watches』は重力反転と箱運びでPortal級の思考体験を生み出す
重力を切り替えながら箱を運び、壁や天井まで足場にして進むパズルゲームが、Portal以来ともいえる強烈な思考体験を生み出しています。Bobby Vanden氏が開発し、Draknek and Friendsがパブリッシングを担当する『He Who Watches』は、シンプルなルールから複雑な空間パズルを段階的に組み立てていく作品です。原文筆者は、2026年に遊べるパズルゲームのなかでも特に優れた1本と評価しています。
箱を動かすだけでは終わらない基本システム
本作では、弓矢を使って箱をつかみ、スイッチの上へ運んだり、進路をふさいでいる場所から移動させたりしながら、各部屋の出口を目指します。ゲームプレイの土台は、箱を押して動かすタイプの3Dパズルです。部屋の構造を観察し、どの箱をどこへ置けば先へ進めるのかを考えることが、基本的な課題になります。
しかし最大の特徴は、プレイヤーが部屋の床だけでなく、壁や天井も歩けることです。向いている面に合わせて重力の方向が切り替わるため、床に置いた箱は床にとどまり、天井まで運んで手放した箱は天井に固定されます。通常の箱運びパズルでは「下に置く」ことが前提になりますが、本作では部屋のあらゆる面が箱の配置場所になり得ます。
この仕組みによって、目の前のスイッチを押すだけでも、床から箱を持ち上げる方法、別の面を経由して運ぶ方法、箱を置いたあとに自分がどの面へ移るかといった複数の要素を同時に考える必要があります。視点を回転させながら一人称で壁や天井を走るため、原文筆者は軽い酔いを感じることもあるとしています。それでも、ルールを思いつきだけで終わらせず、精密なパズル設計へ落とし込んでいる点を高く評価しています。
重力を利用した仕掛けが段階的に発展
本作の魅力は、重力反転を一度使って終わる単発のアイデアにしていないことです。ゲームが進むと、重力を利用した複数の仕掛けが登場し、同じ基本ルールから異なる解法が引き出されていきます。
原文筆者が例として挙げているのが、緑色に光る線に沿って箱を押し出す輸送ビームです。最初は箱を運ぶための装置に見えますが、箱を使ってビームの軌道を途中で止めると、ビームそのものを歩いて渡れる橋のように変えられます。つまり、装置の働きをただ受け入れるのではなく、箱をどこに置くかによって装置の役割を変えることができます。
さらに先へ進むと、その仕掛けを使って箱を狙った場所へ送り込む、機械のような構造まで組み立てられるようになります。箱の配置とビームの進路を調整し、装置が自分の代わりに箱を動かす状態を作る必要があるため、パズルは単純なスイッチ操作から、機械の仕組みを設計する問題へ発展します。
この複雑化は突然行われるのではなく、新しい考え方を少しずつ追加する形で進みます。最初は箱の置き場所を考えていたプレイヤーが、やがて装置の動作を組み替え、箱を運ぶ手順そのものを設計するようになる構成です。原文筆者は、気づかないうちにエンジニアのような思考を求められるようになると説明しています。
ヒント部屋がパズルの目的を明確にする
難度の高いパズルでは、解法が分からない以前に、ゲームが何を求めているのか判断できないことがあります。本作はその問題に対し、各部屋へ任意で挑戦できる小規模なヒント用の部屋を用意しています。
たとえば、本編で一見すると渡れそうにない隙間を越えることが課題になっている場合、ヒント部屋では箱を隙間の向こうへ運ぶ基本的な考え方を、より単純な構成で学べます。答えを直接表示するのではなく、その部屋で必要になる仕組みを小さなパズルとして先に体験させる方式です。
この仕組みによって、プレイヤーは「そもそも何をすればいいのか分からない」という状態に陥りにくくなります。もちろん、ヒント部屋を見たあとでも、本編の複雑な配置を実際に解くのは簡単ではありません。ですが、目的や使うべき仕掛けが不明なまま手探りを続けるのではなく、理解したルールをどう実行へ移すかに集中できます。原文筆者は、このヒントシステムをパズルゲームにありがちな行き詰まりを解消する巧みな設計と評価しています。
謎めいた構造を探索する進行
物語による案内は非常に少なく、プレイヤーは弓を持つ存在として、パズル部屋が連続する奇妙な構造物を探索します。部屋をクリアすると新たなエリアへ進めるようになり、その過程でグリフを探しながら、空間のどこかに閉じ込められている神のような存在を追うことになります。
ストーリーを大量の会話や説明で進めるタイプではないため、物語の詳細よりも、空間の構造と仕掛けを読み解くことが中心です。部屋を解くこと自体が探索の進行に直結し、各エリアで新しいパズルの考え方を身につけていきます。原文筆者は、現在も急いで先へ進まず、各解法を味わいながらプレイを続けているとのことです。
発想のひらめきが報われる設計
原文筆者は、1つのパズルで30分ほど足止めされることがあっても、答えにたどり着いたときには、その解法が筋道立っていて公平に感じられるとしています。難しいだけで理不尽な問題を積み重ねるのではなく、解けたあとに「なぜその方法で解けるのか」が理解できる構成になっている点が評価されています。
Portalと同じ仕組みを再現する作品ではなく、箱運び、重力反転、輸送ビームを組み合わせて独自の思考体験を作っていることが、本作の重要な点です。壁や天井を歩く視覚効果は目を引く要素にとどまらず、箱の置き場所と装置の働きを根本から変えるゲームシステムとして機能しています。原文筆者は、こうした創造的な高揚感を味わえる作品は多くないとしており、時間をかけて解法を見つけたいプレイヤーに向くパズルゲームだと伝えています。