『Ultima Online』の歴史的事件をGabe Newell氏が再評価、プレイヤーの面白い行動をハッキング扱いしないよう警告
2026年09月18日 | #その他 | GamesRadar+
ValveのGabe Newell氏が2013年に大学で行った講演の映像から、ゲーム開発者が犯しがちな大きな誤りについて語る場面が、あらためて注目を集めています。Newell氏が問題視したのは、プレイヤーによる想定外の行動を、技術的な不正やハッキングとして排除してしまうことです。具体例として挙げられたのが、MMO史に残るLord British暗殺事件でした。
Newell氏が語った「開発者の大きな誤り」
この発言は、テキサス大学LBJ School of Public Affairsで行われた講演の約51分30秒付近に登場します。講演では、相互作用を前提とするデジタル世界において、プレイヤーが開発者の望まない方法でゲームシステムを利用する危険性について、学生から質問が寄せられました。
これに対してNewell氏は、ハッキングには複数の種類があるとしたうえで、「ゲーム開発者が犯す最大の誤りの1つは、プレイヤーによる本当に面白い行動をハッキングと取り違えることだ」と説明しました。単にルールの外側へ出た行為を封じるのではなく、それがゲーム世界にどのような価値をもたらしたのかを見極める必要がある、という考えです。
現在、WebKnowerがYouTubeで講演の一部を切り抜いて紹介しており、関連動画は数百万回規模の再生を集めています。切り抜き動画のタイトルはやや強調された表現になっているものの、Newell氏の主張そのものは、オンラインゲームの運営やプレイヤーの自由度を考えるうえで現在でも通用する内容だと紹介されています。
Lord British暗殺事件を「巻き戻すべきではなかった」
Newell氏が例に挙げたのは、1997年8月9日に起きたLord British暗殺事件です。Lord Britishは、ゲーム業界の先駆者として知られるRichard Garriott氏がゲーム内で演じていたキャラクターで、別のプレイヤーによって公の場で殺害されました。
当時、サーバー上のイベント中にクラッシュが発生し、Garriott氏が再ログインした際、キャラクターに設定されていた無敵状態が誤って解除されていました。その結果、見物していたプレイヤーのRainzが放ったファイア系の呪文がLord Britishに命中し、キャラクターは死亡します。本来なら起きないはずの出来事でしたが、サーバーの状態とゲーム内の偶然が重なったことで、歴史的な事件になりました。
当時の開発側は、この出来事をなかったことにするため、ゲーム世界を事件前の状態へロールバックしました。Newell氏はこの対応について、開発者同士が語り継ぐハッキングの事例として紹介しながらも、判断を批判しています。「Lord Britishが殺されたあと、その出来事がゲーム世界をどこへ導くのかを見届けるべきだった。それは本作で起きた最も面白い出来事だった」とする趣旨の発言です。
事件後には、開発者のStarr Long氏がゲーム内でLord Blackthornとして悪魔を召喚し、周囲の無関係なプレイヤーまで攻撃する展開も起きました。この無差別な殺害と、暗殺を実行したプレイヤーの処分をめぐって、ベータテスターから抗議が起きたとされています。偶発的な事件が、プレイヤーの反応や運営側の対応を巻き込み、さらに大きな騒動へ発展した形です。
この暗殺事件は、その後のシリーズでも語られる出来事となり、Lord Britishを殺害すること自体がイースターエッグや伝統のように扱われるようになりました。なお、後にFinal Fantasy 14のプロデューサー兼ディレクターとなるNaoki “Yoshi-P” Yoshida氏も、当時この事件を目撃していたと紹介されています。
事件を物語に取り込むべきだったという主張
Newell氏の主張は、プレイヤーがルールの隙間を突いたとき、ただ修正して元に戻すのではなく、その結果をゲーム内の歴史として受け入れられないか検討すべきだというものです。Lord Britishの暗殺を取り消すのではなく、暗殺が起きた世界を前提に物語や社会の変化を描いていれば、プレイヤーが自分たちの行動で世界を動かしたと感じられた可能性があります。
同氏は講演で、「その出来事のあとに世界がどう変わるのかを、そのまま進めるべきだった」と語っています。想定外の出来事を修正対象として扱うのではなく、ゲームのコンテンツへ変換する発想が必要だという指摘です。オンラインゲームでは、プレイヤーの行動が他の参加者にも影響するため、偶発的な事件を公式の歴史へ組み込めれば、開発者が用意しただけでは生まれない物語が形成されます。
一方で、Newell氏はセキュリティ上の問題を軽視しているわけではありません。講演では、ゲーム内の財産や権利が将来にわたって守られるという信頼も重要だと説明しています。自分の家や所有物がいつでも失われる可能性があるなら、プレイヤーはその価値を低く見積もるようになります。オンライン世界での安全性が不十分であれば、その影響は個々のアイテムやキャラクターにとどまらず、ゲーム全体の経済やコミュニティ、プレイヤーが世界に寄せる信頼へ広がるとのことです。
つまり、すべての想定外行動を許容すべきだという話ではありません。ほかのプレイヤーの財産を不正に奪う行為や、サービス全体を破壊する攻撃には対策が必要です。しかし、技術的には規則違反に見えても、プレイヤー同士の競争や偶然から生まれた出来事が、ゲームをより印象的にする場合があります。Newell氏は、その両者を区別し、面白さにつながる行動まで一律に封じない慎重さを求めています。
この考え方には、動画のコメント欄でも支持が集まっています。上位のコメントでは、暗殺が起きた事実を受け入れ、その後の物語へつなげるべきだったという意見が示されています。講演から長い時間が経った現在も、プレイヤーの自由な行動と運営側の安全管理をどこで線引きするかという問題は、オンラインゲームに残り続けているようです。