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『Doki Doki Literature Club』が9年後も恋愛ゲームを疑わせる理由

2026年09月19日 | #その他 | Polygon

『Doki Doki Literature Club』が9年後も恋愛ゲームを疑わせる理由

かわいらしい少女たちと交流し、詩を書きながら距離を縮めていく――そんな定番の恋愛ゲームの姿を借りて、プレイヤーのゲームそのものへの信頼を揺さぶった作品があります。Team Salvatoが手がけた無料のPC・モバイル向けゲーム『Doki Doki Literature Club』は、2017年9月の公開から9年を経た今も、恋愛ゲームを見る目を変えてしまう作品として語られています。

恋愛ゲームの定番から始まる物語

プレイヤーが演じるのは、高校時代の主人公です。幼なじみのSayoriに誘われ、文芸部へ入部すると、焼き菓子に夢中で気の強いNatsuki、ホラー小説を好む物静かなYuri、そして一見すると完璧に正常な部長Monikaと出会います。序盤は、誰に惹かれるかを選び、相手を意識した詩を書き、学校行事の準備を進めるという、アニメ系恋愛ゲームでおなじみの展開です。

ちびキャラクターが表情を変え、部員たちが笑い合い、穏やかなピアノの旋律が流れる画面は、危険な作品には見えません。原文筆者も、こうした導入は一般的な恋愛ゲームのものだと説明しています。しかし、本作はその「お約束」をプレイヤーに信じ込ませること自体を、物語の仕掛けとして利用します。

Monikaがゲームの外側へ踏み出す

物語が進み、読書や詩作、学校祭の準備を続けていくと、Monikaは自分がゲーム内のキャラクターである事実を認識します。彼女はその状況を受け入れるのではなく、プレイヤーとの関係を維持するためにゲームへ介入し始めます。

ほかのキャラクターのファイルを直接削除したり、自分とプレイヤーの間に立つ人物を場面から排除するよう内容を書き換えたり、ゲームのコードを壊したりするのです。会話ではプレイヤーが使っているPCのシステム上の名前を呼び、配信中にプレイしていることにも気づきます。さらに物語のある場面では、先へ進むためにプレイヤー自身がハードドライブ上の特定ファイルを見つけて削除しなければなりません。

これは、ゲーム内の恋愛対象が画面の向こう側へ手を伸ばしてくるメタフィクション的な恐怖です。単に選択肢で好感度を上げるのではなく、ゲームのデータやコード、プレイヤーの環境そのものが物語の一部になります。恋愛ゲームを遊んでいるはずのプレイヤーが、いつの間にかゲームを正常に動かすことや、登場人物を存在させ続けることに関わらされる構造です。

かわいさの裏側に描かれる苦しみ

本作の衝撃は、ゲームの外側を利用した恐怖演出だけにあるわけではありません。作中では、少女たちが抱える深刻な問題も描かれます。Sayoriには、見落としやすい形で重い鬱状態の兆候が示されます。Natsukiについては、最初は気づきにくいものの、家庭環境に問題があることをうかがわせる描写が次第に明確になります。Yuriは主人公への執着を強め、その行動は自傷へとつながっていきます。彼女が部員たちに見せる詩には、その展開を予告するような手がかりも含まれています。

こうした内容を扱うため、本作には鬱や自傷に関する注意喚起があります。原文筆者は、これらの題材が単なるショック演出として置かれているわけではないと説明しています。プレイヤーが少女たちを選び、拒み、物語を進める立場にいること自体が、彼女たちの苦しみと結びついているからです。

恋愛ゲームでは、登場人物はプレイヤーが追いかける相手にも、選ばれなかった相手にもなります。本作では、少女たちがその関係を程度の差こそあれ認識しているように描かれます。自分たちがプレイヤーのために配置された存在であり、自由に選択されたり見捨てられたりする存在だと知ることが、彼女たちにとって苦痛になっているのです。Monikaの行動も、単純な悪意だけではなく、その構造から逃れようとする試みとして映ります。

ホラーと人間ドラマは切り離せない

本作は約4時間で遊べる作品ですが、その大部分はホラーゲームらしく感じられません。画面は明るく、会話は愛らしく、部活動のやり取りには親しみやすさがあります。そのため、後に訪れる異常との落差が大きくなります。原文筆者は、明るい雰囲気のまま進む場面と、少女たちの苦しみやゲームの破綻が表面化する場面が同居している点に、この作品の強い印象があるとしています。

一方で、作品の評価は一枚岩ではありません。長年ビジュアルノベルに親しんできた読者のなかには、メタ的なホラー要素が強すぎるため、精神的な問題をより現実的に描けたはずの物語が埋もれていると考える人もいます。反対に、恋愛ゲームや文章中心のゲームに慣れていなかったプレイヤーからは、その構造だからこそ強烈に響いたという意見も出ています。

ホラーと少女たちの人間的な苦しみは、別々の要素として簡単に切り分けられません。プレイヤーを驚かせる仕掛けが、同時にキャラクターの置かれた状況を理解させる仕組みになっているためです。後発のエディションでは、ホラーゲームとしての本筋を越えて、それぞれの少女の物語を補足する追加ストーリーも収録されました。また、2017年の公開から数年後には、ファンメイドのMod「Monika After Story」も登場し、公式の結末を越えてMonikaとの時間を延長できるようになっています。

恋愛ゲーム全体への不信を残した作品

原文筆者が特に強調しているのは、本作が単独のホラー作品にとどまらず、ジャンル全体の見え方を変えたことです。スタッフロールでは、明るく弾むような曲が流れますが、その背後では非常に重い結末が展開されます。かわいらしさを最後まで保ったまま、プレイヤーが信じていた形式そのものを崩していく構成です。

その結果、原文筆者は本作を遊んで以降、恋愛ゲームを完全には信頼できなくなったと振り返っています。何気ない会話の背後にMonikaが潜んでいないか、選択肢が無効化されていないか、恋愛対象が壊れたピクセルの集合へ変えられていないかを、どこかで警戒してしまうというのです。

本作が残した影響は、特定の展開を模倣したことだけではありません。恋愛ゲームなら安全で、かわいらしく、プレイヤーが物語を支配できるという前提を疑わせた点にあります。次に同ジャンルの作品を起動したとき、画面に並ぶ笑顔や穏やかな音楽を見て、背後に別の意図が隠れていないかと考えてしまう。その警戒心こそが、9年後にも本作が記憶され続ける理由の1つです。