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『Fatum Betula』はPS1風の空間で日常の風景を不気味な迷宮に変える

2026年10月03日 | #ゲーム紹介 | Polygon

『Fatum Betula』はPS1風の空間で日常の風景を不気味な迷宮に変える

空っぽのゲーム空間が生む不安を、PS1時代を思わせるグラフィックで描いたホラーアドベンチャーが『Fatum Betula』です。身近な部屋や街角が、静けさと奇妙な配置によって現実離れした場所へ変わっていきます。

世界の命運を握る木をめぐる探索

2020年に発売された本作は、Bryce Bucherが1人で制作しました。世界の運命を根に宿す古代の白樺を育てるため、プレイヤーは憂うつで不思議な世界を歩き、住人たちと取引をしながら必要なものを探します。

大食いの獣に毒の果実を渡したり、人間の手が頭についた幽霊の漁師に助言を求めたり、死んだ海の底を抜けて奇妙な住宅の居間へたどり着き、自分の分身から血を採ったりと、探索の先には思いがけない出来事が待っています。選択によって結末は10通りに分かれ、物語は一本道の冒険というより、原因と結果が交錯する夢のように展開します。

夢と現実の境目が揺らぐ世界

本作は、1998年のLSD: Dream Emulatorと、後に広まったBackroomsのようなリミナルスペースのホラーをつなぐ作品としても紹介されています。LSD: Dream Emulatorが、現実のルールが次々に変わる夢の風景を歩き回る体験を描いたのに対し、『Fatum Betula』では、空間に登場人物やアイテム、秘密が散りばめられ、それらを追うことで世界の謎が少しずつ見えてきます。

とりわけ不気味さが際立つのが、Suburbiaと呼ばれる場所です。カーペットや模様入りの壁紙、古いテレビの暖かな光は、最初は見慣れた家庭の風景に感じられます。しかし、静寂の中にとどまるうちに、その部屋は見慣れているのにどこかおかしい、出口のない場所へと印象を変えていきます。幻想的な風景の中に、家具のそろった居間が不自然に置かれているのも、本作が生む違和感の一つです。

Backroomsが描くのは、普通の部屋や廊下なのに、なぜかそこから抜け出せない恐怖です。黄色い部屋や空のオフィス、長い廊下から始まったイメージは、プールのような空間や、Exit 8に登場する終わりのない日本の地下通路などにも広がりました。『Fatum Betula』も、人がいたはずの場所から人の気配だけが消えたときに生まれる、ケノプシアと呼ばれる感覚を巧みに引き出しています。

不完全なグラフィックが想像力を刺激する

本作のPS1時代風の3D表現は、単なる懐古趣味ではありません。角ばったモデルや揺らぐテクスチャ、目立つほど空いた部屋が、場所ごとに想像の余地を残します。Bucherは2021年のViceのインタビューで、第5世代機の美学は「背景として眺めるだけでなく、プレイヤーが環境と向き合う場所を作るのに向いている」と説明しました。その考えは、世界のあちこちに感じられます。

視覚情報を隙間なく埋めるのではなく、あえて足りないものを残すことで、素朴なポリゴンや空虚な部屋が、精細な描写だけでは生まれにくい不思議さを帯びています。高解像度のテクスチャや複雑な怪物、大規模な舞台がなくても、空っぽの部屋と奇妙な音、そしてゲームの視界の外に何かがいるかもしれないという気配があれば、世界は十分に不穏になり得ます。『Fatum Betula』は、ゲームの世界が小さく粗かったからこそ、謎めいて見えた時代への愛情を感じさせる作品です。