『Inscryption』は発売から5年経っても、血の生贄を求める仕組みが忘れられないホラーカードゲーム
2026年10月18日 | #ゲーム紹介 | Polygon
2021年に発売された『Inscryption』は、森の奥の不気味な小屋で行う呪われたカードゲームから始まるデッキ構築型ホラーゲームです。開発はDaniel Mullins Games、販売はDevolver Digitalが手がけています。通常のカードゲームなら負けても大事にはなりませんが、本作では、やがてペンチを見つめながら自分の体のどの部分なら失ってもよいのかを考えることになります。なお、この記事には序盤のネタバレが含まれます。
影に隠れた男と、リスの生贄
舞台はこうです。目を覚ますと、暗い部屋のテーブルに座っています。向かいにいるのはほとんど影に覆われた男で、ぎらりと光る白目だけが見えています。状況の説明はまだなく、なぜここにいるのかも分かりません。男は1枚のカードを渡し、その代価を告げます。必要なのは血で、それは罪のないリスから得るというのです。そんな目に見つめられ、今すぐ何かを殺せと言われたら、あなたは従うでしょうか。筆者は3秒ほどためらったのち、最初の生贄を捧げたといいます。本作が最初に求めるのは、欲しいものの代価を、断ることのできない相手に払わせることだけです。
男の名はレシー。森に住む隠者で、魔法のカメラで動物を撮影し、その本質をカードに変えて暮らしています。脱出するにはレシー自身のゲームで勝つ必要があり、その前に自分がカードにされてしまわないよう注意しなければなりません。
第1幕のカードバトル
第1幕では、レシーを相手に1戦ずつ進める卓上のカードバトルを遊びます。クリーチャーカードには攻撃力と体力があり、自分のカードを相手のカードと向かい合うレーンに置きます。出すカードを決めてベルを鳴らすと攻撃が行われ、誰にも阻まれなかったクリーチャーはダメージを与えます。そのダメージは近くにある不気味な天秤に「歯」として記録され、先に5本を稼いだほうがその戦いに勝ちます。
出したいカードにはそれぞれ代価があり、多くは血です。カードを場に出すには、先に盤面にいる何かを生贄にしなければなりません。そこで頼りになるのが、無料で使えるリスです。リスだけの専用デッキが通常のデッキの隣にあり、毎ターン新たな生贄を引けます。かわいくて無害なリスは次第に使い捨ての駒にしか見えなくなり、積み上がる骨の数にも動じなくなっていきます。各ラウンドは、引く、生贄にする、出す、ベルを鳴らす、どのクリーチャーが通ったかを確かめる、という流れの繰り返しです。
ラウンドの合間には、レシーとのあいだのテーブルがマップに変わります。レシーが木彫りの人形を動かし、戦闘、焚き火、祭壇、毛皮とカードを交換してくれる商人といった地点を進んでいきます。このマップで、賭けられるものも重くなっていきます。最初は動物です。リス以外を生贄にしても、その動物がデッキから消えるわけではないとレシーは言い、「その苦しみは本物だった。しかし、また会える」と告げます。
代償は自分の体へ
戦いが厳しくなると、最良の動物たちでも追いつけなくなり、天秤は不利な側に傾き始めます。そこで思い出すのがペンチです。筆者は「歯1本くらいなら」とつぶやきながら、自分に言い訳を重ねたといいます。本作はこの取引を妥当なものに見せるのがうまいと筆者は述べています。では、どこまで進むのでしょうか。勝つために歯を抜くのか。ナイフが現れたらどうなるのか。先に進むために自分の目をえぐるのか。そこまで差し出して、脱出できる自分は残っているのか。筆者はこう問いかけます。
賞より残った、恐ろしい体験
Polygonは『Inscryption』を2021年のベストゲームに選び、本作は2022年のBAFTAsでBest Gameにノミネートされ、Game Designを受賞しました。ただ、筆者は賞が本作の真価ではないと見ています。本作が示したのは、私たちがどれほど少ない説得で恐怖の側に加担してしまうかを、おぞましいほど具体的に見せたことだというのです。影の中の男、血の生贄、まな板に載ったリス。目を見開いた見知らぬ相手に頼まれれば、自分はほとんど何でも承知してしまうと分かった、と筆者は振り返ります。知らずに生きていたかった事実だそうです。
しかも、これは始まりにすぎません。レシーの小屋を出ると、ゲームは少なくとも一度は上下がひっくり返ります。『EarthBound』や『Pokémon』を思わせるピクセルアートのアドベンチャーになり、続いてカードがフロッピーディスク、ディーラーがロボットの工場へと変わります。そのロボットが何よりも望むのは「外」へ出ることですが、行き先はどこなのでしょうか。さらに、画面の外へ誘導され、実在するウェブサイトやGPS座標へ向かわされるなど、ゲームと現実の境界がぼやける場面もあるといいます。
本作は異様さを増しながら要求を重ねていきますが、あまりに引き込まれるため、その過熱ぶりにほとんど気づかないと筆者は述べます。それでも筆者は、薄暗い第1幕のテーブルにもう一度座るつもりだといいます。そして、あっという間に引き戻されることこそが、『Inscryption』でいちばん恐ろしい点かもしれないと締めくくっています。
『Inscryption』はPC、PS4、PS5、Switch、Xbox Series X|Sで遊べます。