『Deltarune』は選択を描きながら結末を1つに定める
2026年09月07日 | #ゲーム紹介 | DualShockers
結末は1つだと示されているのに、プレイヤーの選択が登場人物や物語を大きく変えていく。この矛盾を正面から扱っている点こそ、Toby Fox氏のインディーRPG『Deltarune』が、単なるUndertaleの続編を超えて注目される理由です。作品内の物語だけでなく、長い構想期間や公開形式の変化、開発過程そのものまでが、本作をゲーム史上でも特に興味深い進行中の物語にしています。
10年以上にわたる個人的な構想
原文筆者は、本作の魅力を理解するには、まずToby Fox氏と作品の個人的な関係に目を向ける必要があるとしています。Fox氏によれば、最初の構想が生まれたのは2011年です。大規模な商業プロジェクトとして企画された作品ではなく、長いあいだ作者の中に存在していたアイデアが、時間をかけてゲームの形になっていきました。
Fox氏は過去にもこの企画を作ろうとしましたが、完成には至りませんでした。その時期に考えられていた音楽の一部は、後にUndertaleで使われています。また、UndertaleのKickstarterが行われた時期には、本作を制作する構想も並行して存在していました。そのため両作品の関係は、完成した作品同士を後から結び付けたものではありません。Undertaleの中に本作の古い断片があり、本作の中にはUndertaleから受け継がれた要素があります。
本作とUndertaleは、キャラクターや音楽、設定の考え方などを共有していますが、明確に同じ世界を舞台にした作品ではありません。一般的な前日譚や続編のように、時系列だけで関係を説明できるものでもないとされています。Undertaleを遊んだ経験は本作の解釈に影響し、本作を知ることで、今度はUndertaleの出来事を別の角度から見直せる構造です。タイトル自体もUndertaleのアナグラムになっており、両作品の結び付きが意図的に設計されていることを示しています。
無料デモから有料作品へ変化した公開形式
本作のリリースの歴史も、作品そのものと同じくらい特徴的です。Fox氏は当初、ゲーム全体が完成するまで公開を待ち、まとめて届けることを考えていました。しかし、完成を待ち続けることは作者にとってもファンにとっても非常に苦しいと判断され、計画は変更されました。
その結果、本作は無料デモとして始まり、有料の追加章が提供される形を経て、現在は有料ゲーム本編と無料の章追加という形式へ変わっていきました。一般的なゲームでは成立させるのが難しい公開方法ですが、Undertaleで支持を得たFox氏と本作だからこそ、ファンはこの変化を受け入れながら作品を追い続けられたと原文筆者は見ています。
新しい章を待つ時間も、本作では単なる空白になっていません。ライブサービス型ゲームのシーズン更新にも分割配信はありますが、原文筆者は、そうした形式が引き延ばしに感じられる場合がある一方で、本作の待ち時間は物語を考察する余白として機能していると評価しています。次の章で何が起こるのか、これまでの描写にどんな意味があるのかをファンが想像できるためです。ゲームでありながら、古い時代の連載小説のような体験を成立させている点が、本作の珍しさだといえます。
開発の過程までファンに見える作品
本作の開発は、完成品だけを公開する一般的な方式とも異なります。Fox氏は、未完成の章やテスト、技術的な問題、以前の計画から変更された点などを、ファンに対して比較的オープンに説明してきました。大手スタジオが制作日誌や公式発表を用意する場合とは違い、開発上の迷いや変化まで含めて、ファンが制作の進行を見守れる形になっています。
原文筆者は、この開発過程がほとんどゲーム体験の一部になっているとしています。プレイヤーは完成した章を遊ぶだけでなく、作品がどのような問題を乗り越え、どんな形へ変わっていくのかも知ることになります。文化的な影響力を持つゲームでありながら、制作の裏側をここまで継続的に共有する例は多くありません。
規模の拡大も、その変化を示す重要な要素です。本作は当初、より小規模な個人制作として始まりました。しかし、目指す品質とゲームの規模を実現するには、Fox氏ひとりでは人員も技術も足りないことが明らかになりました。2024年までには、専門プログラマー、ローカライザー、テスター、制作進行の担当者などを含むチームが加わっています。
チームの拡大によって、本作の内容も進化しました。多くのゲームでも開発中にスタッフが増えたり方針が変わったりしますが、本作ではその変化をファンが追い、時期ごとに異なる状態のゲームを実際に遊べる点が特徴です。第5章で追加された新しいプラットフォームアクションは、開発体制の拡大がなければ実現できなかったものとして紹介されています。
プレイヤーと主人公を分ける物語構造
本作の最も重要なテーマの1つが、プレイヤーと主人公は本当に同じ存在なのかという問いです。プレイヤーはKrisのSOULを操作しますが、SOULはKris本人とは別のものとして描かれています。Krisは自分の身体からSOULを取り出し、プレイヤーが望んでいない行動を取ることさえあります。
この仕組みによって、プレイヤーが操作している対象と、物語の中で生きている主人公とのあいだに明確なずれが生まれます。原文筆者は、Krisを自分自身として動かしているのか、それともKrisを操作しているだけなのかという疑問を、本作はゲームシステムと物語の両方で突き付けてくると説明しています。操作されるキャラクターが操作を望んでいないなら、プレイヤーは何者なのか。そもそも、その行為は悪いことではないのか。多くのゲームでは問われない問題が、本作では物語の中心に置かれています。
この境界は、任意ルートである「Weird Route」によってさらに複雑になります。第2章以降に進められるこのルートでは、Noelleの人物像が変化し、Krisとプレイヤーの関係にも影響が及びます。以降の複数の場面や出来事、遭遇する展開も変わり、単発の分岐ではなく、章をまたいで影響が残るルートとして描かれています。
Weird Routeでは、ゲームが恐ろしいと扱う結果や出来事に、プレイヤー自身が関わったと受け止めざるを得ません。なぜそれが起こるのか、どのように起こるのか、どこまでプレイヤーに責任があるのかは、現時点で明確な答えが示されていない問題です。原文筆者は、このルートをプレイヤーの責任を検証する実験のようなものと位置付けています。
現実と虚構の境界を揺さぶる仕掛け
本作の物語は、複数の層で成り立っています。最も外側には、プレイヤーがゲーム内のキャラクターを操作しているという現実があります。その下には、ゲーム世界の住人たちが認識する生活や出来事があり、さらにその内側へ、KrisとSOULの分離を通じてプレイヤーの意思そのものが物語へ入り込んでいきます。Weird Routeでは、この関係がいっそう強調されます。
重要なのは、それぞれの層の境界がはっきりしていないことです。ある瞬間に動いているのはプレイヤーなのか、Krisなのか。画面上の出来事は単なるゲームの演出なのか、それとも作中世界で実際に起こったことなのか。本作はこうした区別を意図的に曖昧にし、プレイヤーが操作しているという当たり前の前提まで疑わせます。
1つの結末と多様な選択の両立
公式FAQでは、本作には1つの結末があるとされています。ただし、それが具体的に何を意味するのかは、現段階では完全には分かっていません。複数のルートや選択によって人物、場面、出来事、遭遇する内容が変化する一方で、最終的には同じ場所へ到達する可能性が示されているからです。
ここに、本作最大の謎があります。選択が結果を変えるなら、結末が1つに定められていることとどう両立するのでしょうか。逆に、最後の到達点が同じでも、その過程で人物や関係性が変わるなら、選択にはどのような意味があるのでしょうか。Weird Routeは、行動によって物語の様相が大きく変わることを示しながら、固定された結末という前提も崩していません。
原文筆者は、この問いにまだ答えは出ていないとしつつ、だからこそ本作の今後に期待できるとしています。Toby Fox氏の個人的な構想から始まったゲームは、公開形式、開発体制、プレイヤーとの関係まで変化させながら続いています。プレイヤーの選択を重視しながら結末を1つに定めるという挑戦がどんな形で結実するのか。その答えを待つ時間も含めて、本作は現在進行形の物語として存在しているのです。