『Stardew Valley』作者が語る創作の源泉とHaunted Chocolatierの現在
2026年09月08日 | #その他 | Game Informer
『Stardew Valley』の生みの親であるEric Barone氏が、10周年を迎えた本作の歩みや創作の考え方、そして次回作Haunted Chocolatierの開発状況について語りました。無料アップデートを継続してきた理由から、AIを創作に使わないという姿勢まで、世界的な人気作を生み出した開発者の価値観が明かされています。現在は2つのゲームを並行して開発しており、次回作は本作を大きく上回る規模を目指しているとのことです。
10年で世界的な作品へ成長
本作は、祖父から譲り受けた土地で新たな生活を始める農家を主人公にした作品です。農作業や町の住人との交流、恋愛、洞窟探索などを組み合わせ、会社員として働く日々から離れ、より自然で人間らしい暮らしへ戻るというテーマを描いています。穏やかな農村生活だけでなく、モンスターのいる洞窟や森の精霊、町の人々が抱える事情なども盛り込まれ、時間帯や季節によって異なる空気を感じられる世界が作られています。
本作は全プラットフォーム累計で4100万本以上を販売しており、英語圏のRedditコミュニティには120万人以上が参加しています。NexusModsには約3万件のModが登録され、12言語に対応したうえで主要なゲーム機やプラットフォームへ移植されています。小規模なピクセルアートの農業シミュレーションとして始まった作品が、巨大なファンコミュニティとMod文化を持つ代表的なインディーゲームへ成長した形です。
Barone氏は、本作が長く支持されている理由について、現代社会の複雑さから離れ、本来の人間らしい生活や自然な目標へ戻れる点にあると説明しています。「世界がますます混乱していくなかで、人々は本作を逃避先として、そして本当に人間らしいものへ戻る場所として見ているのだと思います」と同氏は話しました。
2016年の公開後も開発は続き、これまでに6回の大型アップデートが実施されています。新たな結婚候補や探索エリアなどが追加され、ゲームの安定性も改善されてきました。Barone氏が特に印象に残っているアップデートとして挙げたのは、最新の1.6と、発売直後に制作した1.1です。1.1の頃はまだ完全な1人開発で、多言語対応もモバイル版もなく、思いついたアイデアをすぐ実装できたため、現在よりも開発が新鮮で楽しかったと振り返っています。
一方、現在は新しい要素を追加するたびに、各言語や対応機種、既存のシステムなどを考慮する必要があります。ファンから高い評価を受け、人気作として大きな規模になったことは、開発の自由さと引き換えに相応の負担を生んでいるようです。それでも、これまでのアップデートで料金を徴収したことはなく、追加コンテンツを無料で提供してきました。
ファンの期待と自分の直感の間で
Barone氏は、ファンから寄せられる感謝や称賛を意識しすぎないようにしているとしています。自身を道徳的に優れた人物だとは考えておらず、常にもっと良くできると考えるほうが健全だというのが、その理由です。そのうえで、収益を最大化することよりも、プレイヤーから愛されることに価値を感じると説明しました。
「お金を追うこともできますが、コミュニティからの尊敬や称賛を追うこともできます。自分にとっては、後者のほうが幸せです」とBarone氏は語っています。無料アップデートを続けてきた背景には、単なるサービス精神だけでなく、プレイヤーとの関係を大切にしたいという本人の価値観があるようです。
ただし、ファンの要望をすべて取り入れているわけではありません。Barone氏は、プレイヤーの声を聞きながらも、自分の直感と照らし合わせて採用するかどうかを判断していると説明しています。本作が支持されたのは、そもそもファンの意見を大量に取り入れて作られた作品ではなく、ほぼ本人のアイデアだけで作られた作品だったからです。人気が出たあとに要望へ全面的に従えば、プレイヤー自身が望んでいたものとは異なる結果になる可能性があると考えています。
その一例として、すでに結婚しているキャラクターを新たな結婚候補にする案が挙げられました。CarolineやRobin、Demetriusと結婚できるようにする場合、町の家族を壊すことになります。Barone氏は、サンドボックスゲームなら危険な行動とその結果を体験できてもよいと考える一方、町の人々が何事もなかったかのように受け入れる展開にはしないつもりだとしています。家族が崩壊し、住人から嫌われ、怒りや苦しみが生まれるような深刻な結果が必要になるため、作品の逃避的な性質には重すぎるのではないかと判断しているとのことです。
開発中のアイデアは、実際に形にして遊び、感触を確かめる方法で取捨選択しています。地下のゴブリンの村など、長い時間をかけて制作した要素であっても、面白くないと感じれば全体を破棄します。仮のアートだけで試すのではなく、グラフィックや仕組みを一通り完成させたうえで判断するため、数か月分の作業を失うこともあります。しかし、悪いと分かっているものを切り捨てることで、次の良いアイデアへ進める場合もあるとBarone氏は話しました。
「別の世界」から届く創作の感覚
Barone氏は、創作の源泉を論理的な計画だけでは説明できないものとして捉えています。映画監督David Lynchへの敬意について話すなかで、優れた芸術家には「別の世界」とつながる感覚があると表現しました。音楽がどこから生まれるのか、どうやって作曲するのかは論理的に説明できず、突然どこからともなく現れるように感じるという考えです。
同氏はその感覚を超自然的なものと表現し、科学だけでは説明できない創造性の不思議さに触れています。ゲームや映画、本に触れたとき、夕暮れの地平線を見たときのような、言葉にしにくい特別な感覚をプレイヤーに届けたいというのが、ゲームを作る大きな動機になっています。
子どもはノームや目に見えないものを自然に想像し、創造的あるいは精神的な感覚と強く結びついているように見えるものの、大人になるにつれてその感覚を失っていくとBarone氏は考えています。だからこそ、大人が一時的に現実を疑うことをやめ、かつて感じていた不思議さを取り戻せる場所をゲームの中に作りたいとしています。
この考えは、2021年に発表された次回作Haunted Chocolatierにも引き継がれています。プレイヤーは幽霊の出る城に住むショコラティエとなり、材料を集めてチョコレートを作り、販売します。本作よりも暗い雰囲気と、幽霊や城を生かした少し不気味な表現が特徴になる見込みです。完全に恐ろしい作品にするのではなく、予想できない出来事に出会って「何が起きているのか分からないが、なぜか好きだ」と感じてもらえる世界を目指しているとしています。
また、Barone氏はゲーム開発における生成AIの利用にも明確な姿勢を示しました。創作の工程でAIを使えば、アルゴリズムに創造性を委ねることになり、人間が作る純粋さや真正性が損なわれると考えています。限定的で具体的な用途を除き、芸術的な表現のためにAIを使うことはないとし、助けが必要なら別の人間に表現の機会を渡すべきだと語りました。
1.7と次回作を並行して開発
現在、Barone氏とチームは本作の1.7アップデートとHaunted Chocolatierを同時に進めています。作業時間は週5日をHaunted Chocolatier、週2日を1.7アップデートに充てているとのことです。2つの作品を行き来することで気持ちを切り替える難しさはあるものの、いま必要な作業として取り組んでいます。
1.7アップデートについては、結婚後のキャラクター同士の交流を増やすことや、過去の祭りをもう一度体験したくなる仕組みを検討しています。クエストボードやスペシャルオーダーボードなど、既存システムをさらに掘り下げる案もあるとしています。ただし、挙げられた内容はあくまで追加候補であり、確定した実装内容として発表されたものではありません。
本作の人気が長く続いている以上、開発を突然終わらせるのは惜しいとBarone氏は考えています。発売から10年が経っても遊び続けたい人が大勢いることは、開発者にとって非常に珍しい立場であり、その期待を軽く扱うことはできないとのことです。
一方、Haunted Chocolatierの開発はまだ深い段階にあり、完成までの距離は近くないようです。Barone氏は現在の状態を開発に「膝まで浸かっている」と表現し、具体的な発売時期には触れていません。本作を制作したときは、雑音のない環境で4年半をかけて開発できましたが、現在は世界的な人気に伴う取材やファンレター、ビジネス上の依頼などにも対応する必要があります。
Haunted Chocolatierの規模は、本作よりも大きくなる予定です。マップの数、モンスターの数、アイテムシステムの奥行き、装備スロットなど、複数の要素を本作以上に拡張していると説明されています。開発者としては、まだ共有したいアイデアや掘り下げたいテーマが残っており、それらを表現するためにこの新作を作る必要があると考えています。短期的なアップデートによる反響だけでなく、創作者として自分の世界を最後まで表現することが、次の作品へ進む理由になっているようです。