『Minecraft』に移植されたハエの脳は「意識」ではなく再現モデルだった
ハエの脳をデジタル化して『Minecraft』の世界に接続し、自由意志を持つ存在を作った――そんな動画が注目を集めています。しかし実際に起きたのは、意識のアップロードでも、ハエが本当にゲームを遊んだことでもありません。研究成果をもとにした脳の再現モデルを、動画制作者がゲーム内の刺激に反応するよう手作業で組み込んだ実験でした。
話題になった「ハエの脳」の正体
約10年に及ぶ研究の末、科学者たちはショウジョウバエの脳全体をマッピングしました。この成果を利用できる公開ツールが登場したことで、ハエの脳をゲーム内のキャラクターに組み込む試みが可能になっています。海外のYouTuber、Ro0oneyは「意識をゲームにアップロードした」と題したショート動画を公開し、クモの姿をしたデジタル生物を作成しました。動画では、その生物が最初に取った行動として、自ら窒息するような場面が紹介されています。
この内容は、ハエの脳をゲームへそのまま移植したものではありません。Ro0oneyは、ゲーム内で起きる出来事に対してデジタル化された神経回路がどう反応するかを、自身でプログラムしています。そのため、キャラクターの行動には制作者の設定が大きく影響します。初期バージョンでは操縦に関わるニューロンが機能しておらず、クモの体では飛ぶことすらできませんでした。見た目がクモであっても、内部のモデルはハエの脳をもとにしているため、自然な生物として動ける状態ではありません。
研究者も認めるシミュレーションの限界
Ro0oneyは追加動画で、プリンストン大学の研究者Arie Matslian氏に実験内容を相談しています。公開ツールを構築した研究者でもある同氏は、このツールについて生物物理学の多くを単純化していると説明しています。一方で、脳の働きを高い精度で表現したモデルではあるとしており、完全な作り話というわけでもありません。
ただし、モデルの精度と、そこに意識が存在するかどうかは別の問題です。Ro0oneyは最初に恐怖を追加し、恐怖が意識を維持する中心的な要素だと説明しています。しかし、この発言は恐怖が意識そのものを生み出すという意味ではありません。原文筆者は、進化生物学、心理学、神経科学で恐怖の役割は異なるため、こうした説明が実験の細部を誤解させる一例になっていると指摘しています。
空腹は再現できても記憶は持たない
デジタル化されたハエには、エネルギー量を追跡し、数値が一定以下になると空腹に関わるニューロンを働かせてエネルギーを補給しようとする仕組みが設定されています。これは、生物の体内で神経が状態を検知し、行動を促す流れを機能面で再現したものです。しかし、本人が生物と同じ空腹感を味わっているわけではありません。
さらに、このモデルは本当の意味で記憶を形成できません。実際のハエとおおむね同じ構造的な経路を持っていても、自分で回路を書き換えることができないからです。再現されているのは、死んだハエの脳を含む、ある1つの脳の状態を切り取ったスナップショットです。周囲を知覚しながら学習し、変化していく生物を再現したものではありません。
それでも、Ro0oneyが試行錯誤しながら意識の仕組みに近づこうとする過程には、エンターテインメントとして見る価値があります。話題の「自殺」も、デジタル生命が自分の意思で死を選んだ証拠ではなく、制作者が設定した反応と、モデルが持つ制約の結果として捉えるべき現象です。