『Ace Combat 8: Wings of Theve』専用技術「Cloudly」で雲を戦術と臨場感に変える
『Ace Combat 8: Wings of Theve』では、空を彩る雲が単なる背景ではなく、戦闘の駆け引きやプレイヤーの状況判断に関わる要素として作り込まれています。開発チームは専用ミドルウェア「Cloudly」を新たに開発し、リアルな雲の表現と60fps動作の両立を目指しました。本作は10月2日の発売を予定しています。
空に「マップ」を作るための雲
バンダイナムコエンターテインメントのブランドディレクターを務めるKazutoki Kono氏と、プロデューサーのManabu Shimomoto氏は、発売を前に本作の第1ミッションと第4ミッションを使ったプレイセッションを実施しました。原文筆者は、ジェット機の正確な飛行感覚や迫力あるサウンド、偽りの英雄として宣伝された人物が本物のエースを目指すというストーリーに触れたうえで、とりわけ印象に残った要素として雲の表現を挙げています。
雲の重要性について、Kono氏は、空は広大で何もない空間になりやすく、そのままでは「レベルデザインのない巨大な箱」のようになると説明しています。そこで雲を配置することで、空中にもプレイヤーが認識できる“マップ”を作れるという考えです。雲は視界を遮るため敵から身を隠す遮蔽物になり、敵機を探すための駆け引きも生まれます。一方で、地形のような衝突判定を持たないため、飛行の自由度を保ったまま戦場に変化を加えられる点も利点だとしています。
原文筆者がプレイした第1ミッションでは、編隊とともに大きな雲へ接近し、慎重にその内部へ進入しています。雲に入るとDualSenseが振動し、空気抵抗を受けているような感覚が伝わります。さらに深く進むにつれてキャノピーに結露が広がり、視界にも変化が現れました。こうした反応は雲を見た目だけの演出にせず、機体が実際に空気や水分の中を飛んでいる感覚につなげるものです。
専用ミドルウェア「Cloudly」を開発
雲の技術を大きく前進させるきっかけになったのが、2022年のBandai Namco Aces設立です。同チームはエースコンバットシリーズに継続して取り組む専門組織として設けられました。それ以前は、1本の作品が完成すると開発スタッフが別のプロジェクトへ移り、シリーズ開発で得られた知識やノウハウが同じ場所に蓄積されにくかったとKono氏は振り返っています。
Bandai Namco Acesは、シリーズに関する経験を保持し、新しいメンバーへ長期的に引き継ぐための“中央司令部”として機能します。開発チームを固定することで、作品ごとに技術を作り直すのではなく、過去の成果を土台に新しい表現へ挑戦できるようになりました。雲の表現も、その体制から生まれた成果の1つです。
Cloudlyは、ゲーム本体のエンジン上に組み込まれる独自のミドルウェアです。前作にあたる2019年のAce Combat 7: Skies Unknownでは、Trueskyというツールをベースに多数の改修を加えて雲を描画していました。しかしShimomoto氏によれば、目指す視覚表現を実現するには、さらに多くの調整項目やカスタマイズ性が必要でした。そこで既存技術を再利用するのではなく、雲の形状や描画をより細かく制御できるCloudlyの開発に進んだとしています。
Cloudlyが担うのは、雲を現実らしく見せることだけではありません。雲の影が地表や別の雲に落ちる表現、雲の内部に入った際の水分や視界の変化など、飛行中にプレイヤーが読み取れる情報も含まれます。視覚的な精密さを高めることで、空中戦における判断材料そのものを増やすことが開発の狙いです。
雲が敵の位置を知らせる戦術要素に
Shimomoto氏は、雲を正確に作ることが高度の把握にも役立つと説明しています。たとえば雲に落ちた影の位置を見れば、敵機が自機より上にいるのか下にいるのかを推測できます。雲の中でわずかな光のきらめきを見つけた場合、それが敵機のキャノピーに反射した太陽光である可能性もあります。
このように、雲は自機を隠すための遮蔽物であると同時に、敵の存在や位置を推測するための手がかりにもなります。雲の外から内部の敵を直接確認できなくても、影や反射光といった小さな変化を読み取れば、次の行動を考えられます。開発チームは、雲によって本作の遊び方が増えると考えています。
リアルな雲の再現には、気象や流体に関する知識も必要になりました。Kono氏によると、Cloudlyの開発には、研究論文を読み込んで学術的な観点から雲を分析する人物と、その知見をゲーム内で動く技術へ落とし込むエンジニアの協力があったとのことです。インタビューでは積乱雲を意味する「cumulonimbus」という単語をめぐり、通訳がスマートフォンで検索し、雲の種類を示す手描きの図を使って質問を伝える場面もありました。
ただし、開発チームが特定の雲の種類だけに苦戦したわけではありません。むしろ大きな課題になったのは、広い空間へ大量の雲を配置した際の処理負荷でした。開発初期には、100平方kmの空間をアリーナとして想定し、その中へ雲を配置したところ、描画処理は60fpsを維持するための基準から大きく外れていたとShimomoto氏は説明しています。
本作では1秒あたり60フレームを目標としており、1フレームに使える時間は約16ミリ秒です。雲の形状や光、影などの計算をすべてこの制限内に収めなければなりません。そこでエンジニアは描画処理を最初の約100分の1まで高速化しました。雲の見た目を追求するだけでなく、空戦の操作感を損なわない速度で処理できるようにしたことが、Cloudlyの大きな技術的成果です。
雲だけではない音響へのこだわり
開発チームは映像だけでなく、音響にも高い密度で取り組んでいます。Shimomoto氏によれば、本作のサウンドは映画館と同じ環境にあたる7.1.4チャンネルで制作されています。音の方向や高さまで含めて再現することで、プレイヤーが機体の周囲で起きている出来事を把握しやすくする構成です。
サウンドデザイナーは、さまざまな録音現場で専門家と協力し、火薬を実際に爆発させて異なる距離からサンプリングしました。その音源を7.1.4チャンネルの仕組みに組み込み、銃撃や爆発がどの位置で発生したのかを感じ取れる音響を目指しています。Shimomoto氏は、サウンドデザイナーたちがこの作業に強くこだわっていると話しています。
原文筆者は、技術的な質問に対して開発者が細部を避けることも多いなか、Shimomoto氏が雲の処理時間をミリ秒単位で説明し、音響制作についても詳しく語った点を紹介しています。雲の種類、描画負荷、敵機の影や反射光、さらには火薬の録音に至るまで、エースコンバットの開発陣は空戦を成立させる細部を科学的に検証しているとのことです。