『マジック:ザ・ギャザリング』最新セットは新たな世界を即座に消し去った
『マジック:ザ・ギャザリング』の最新セットReality Fractureは、Jace Belerenが理想の多元宇宙として生み出したEchoverseを登場させながら、その世界と住人を物語の終盤で消滅させました。多元宇宙全体を巻き込む壮大な展開でありながら、原文筆者は登場人物や出来事に感情移入する時間がほとんど与えられず、物語上の重大な事件として機能していないと指摘しています。長年続いてきたストーリー重視の展開が、スケールを広げすぎたことで逆に危機感を失っているという問題が浮き彫りになりました。
Echoverseを作って、すぐに消滅させた結末
Reality Fractureは、2023年のWilds of Eldraineから続いてきた物語の一区切りにあたるセットです。この一連の展開では、Jaceが自分の考える「完璧な」多元宇宙を作り上げようとし、既存の世界やキャラクターを別の形へ書き換えようとします。セットのカードには、その構想によって生まれたEchoverseの姿が描かれており、既知の人物や世界に異なる可能性を与えるアイデアが盛り込まれています。
たとえば、Chain Veilを受け入れたGarruk、Consulate側についたChandra、緑のPhyrexian Obliterator、Phyrexian oilに汚染されなかったMirrodinなどが登場します。おなじみのキャラクターやカードを別の歴史の中に置き直す仕掛けは、長いシリーズを知るプレイヤーにとって大きな見どころになり得るものでした。さらに、HexhavenのSphinxたちや、Jaceによって軍事要員として徴用された学生たちなど、新しい設定にも広がりがありました。
しかし、9月10日に公開された最終章では、EmrakulがJaceのEchoverseを丸ごと飲み込み、そこに存在した人物や世界も失われます。物語の最終場面では、Hexhavenの士官候補生たちが恐怖に叫び、残ったStrixhavenの学生たちが歓声を上げるという描写が置かれました。原文筆者は、この大量消滅が物語内でも十分に重く扱われておらず、読者やプレイヤーも同じように気にかけにくいだろうと見ています。
Echoverseの住人たちは通常の人間と同じように行動し、会話もする一方で、物語では彼らに魂がないと説明されます。この設定は、なぜ大規模な消滅を正当化できるのかを補うためのものですが、原文筆者はむしろ登場人物への関心をさらに失わせる要因になっていると批判しています。Jaceの計画が成功して既存の設定を大きく置き換えることは、作品の今後を考えれば起こりにくいと最初から分かっており、その失敗によって何が変わるのかも見えにくかったためです。
Jace自身も完全に物語から退場したわけではありません。肉体は失われたものの、彼のスパークはTamの中に残されています。原文筆者はこれを、将来Wizards of the Coastがシリーズの象徴的なキャラクターを再登場させたくなった場合に備えた都合のよい保険のようなものだと受け止めています。そのため、Jaceの「死」も現状を根本から変える出来事にはなっていません。
多元宇宙の規模が大きいほど危機感が薄れる理由
Reality Fractureへの批判の中心にあるのは、物語の舞台を多元宇宙全体へ広げることと、プレイヤーが出来事を現実の危機として受け止められることは別だという点です。1つの世界ではなくすべての世界が危険にさらされる展開は、表面上はより重大に見えます。しかし、多元宇宙を扱う物語では、別の世界や別の可能性を持ち出すことで、状況の変更を後からなかったことにしやすくなります。
原文筆者は、Marvel作品などでも「これまでとは何もかも変わる」と宣伝されながら、最終的には大きな現状変更が起こらない展開が繰り返されてきたと説明しています。大規模なシリーズを運営する企業にとって、利益を生む既存の設定や人気キャラクターを大きく変えることはリスクになります。その結果、物語は世界の存亡を賭けるほど大きくなっても、結末では元の状態へ戻れる余地を残すことになります。
本作の世界設定も、近年は同じ問題を抱えていると原文筆者は論じています。New Phyrexiaによる多元宇宙への侵攻の後には、数多くのプレインズウォーカーがスパークを失い、世界を自由に移動する能力を失うDesparkeningが起きました。ところが重要なプレインズウォーカーの多くは力を保ち、さらにOmenpathsが開いたことで、一般の住人も事実上、別の世界へ移動できるようになっています。
この変更によって、各世界の固有性も揺らいでいます。原文筆者は例として、Ravnicaで神のように崇拝されている悪魔のギルドマスターRakdosが、Outlaws of Thunder Junctionではカウボーイとして登場したことを挙げています。異なる世界の人物が交差すること自体は新しい刺激になりますが、どのキャラクターがどこへでも現れるようになると、世界ごとの文化や設定が物語の制約として働きにくくなります。
この傾向は、Jaceが目指したEchoverseにも表れています。既存の多元宇宙を上書きするほどの計画でありながら、読者はその計画が長期的に成功するとは考えにくく、失敗したときに失われるものも実感しにくい構造でした。Emrakulによって世界全体が消滅するという結末も、規模が大きすぎるため、個々の人物の悲劇として捉えにくくなっています。
Mirrodinの物語が残した違い
原文筆者が対照的な成功例として挙げているのが、Scars of Mirrodinブロックで描かれたPhyrexianとMirranの戦いです。PhyrexianがMirrodinを侵食していく物語では、最終的にどちらが勝つのかが最後まで確定していませんでした。Wizards of the Coastは、Mirrodin側の勝利を描くアートや宣伝素材と、Phyrexian側の勝利を示す素材を並行して展開し、後者がNew Phyrexiaとして実際の結末になりました。
この展開では、物語の舞台がMirrodinという1つの世界に絞られていました。プレイヤーは複数のセットを通じて同じ場所にとどまり、そこに暮らす人物や抵抗勢力の状況を知る時間を持てました。だからこそ、Phyrexianに敗れる可能性や、Mirranの抵抗が迎える悲劇に現実味が生まれたと原文筆者は評価しています。失われる対象が具体的に見えていたため、最終的な結果の重さも伝わりやすかったということです。
一方、現在のセットはそれぞれ異なる世界や物語へ移っていくため、プレイヤーが新しい舞台に慣れる前に次の展開へ進むことがあります。かつてのように3つの関連セットでキャラクターと筋書きを掘り下げる形式ではなくなったことで、世界の変化や登場人物の運命を追い続ける時間が短くなりました。Reality Fractureで魅力的な設定が提示されても、それが理解される前にEchoverseが消滅したのは、この構造の影響でもあるとされています。
物語を再び意味のあるものにするには
原文筆者は、Reality Fractureに登場したキャラクターたちをもっと長く見たかったと述べています。悪の側に立つGideon Jura、HexhavenのSphinxたち、そしてJaceに軍務を強いられた学生たちは、短い登場で終わらせるには設定が興味深すぎる存在でした。新しい世界を作り、そこに複数の人物や歴史の分岐を用意したにもかかわらず、すぐにすべてを消去する展開は、物語への関心を育てる前に断ち切ってしまいます。
『マジック:ザ・ギャザリング』のストーリーは、ゲームの中心的な要素として扱われない時期も長かったと原文筆者は考えています。それでも、物語はゲーム内のセットとUniverses Beyondを区別する重要な要素です。カードに描かれた人物や世界がシリーズ固有の歴史を持つからこそ、単なる能力やイラスト以上の意味が生まれます。将来的にテレビ番組や映画などを通じてマルチメディア展開を目指すのであれば、Wizards of the Coastはこの設定をより重視する必要がある、というのが原文筆者の見方です。
そのために必要なのは、さらに大きな危機を用意することではなく、物語の範囲を狭めることだとされています。多元宇宙全体の運命を毎回描く代わりに、1つの世界とそこに生きる人物へ焦点を絞れば、出来事の結果を受け止めやすくなります。原文筆者は、ほぼ独立した物語として展開されたEdge of Eternitiesを、設定を再び面白くする方向性の一例として挙げています。Reality Fractureが示したのは、壮大な世界観そのものの問題ではなく、広げすぎた物語では個々の世界とキャラクターの重みを保ちにくいということです。