『ゲーム業界』で日本企業の雇用が安定する理由を専門家が分析
2026年09月18日 | #その他 | GamesRadar+
欧米のゲーム業界で大規模なレイオフが続く一方、日本のゲーム開発会社は比較的安定した雇用を維持しています。業界のレイオフ動向を追跡する専門家は、その背景として、日本企業のチーム規模や事業方針、経営陣の報酬体系が欧米企業と異なる点を挙げています。世界的にゲーム業界の構造変化が進むなか、地域によって危機の深刻さが大きく異なることを示す事例となっています。
レイオフの大半は北米と欧州に集中
ASGC Games Industry Layoffs Trackerを運営するAmir Satvat氏は、Edgeの取材で日本のゲーム業界について「まったく別のゲームだ」と説明しています。同氏は2022年から、企業の公式発表や業界関係者から寄せられた情報をもとに、ゲーム業界における人員削減の状況を追跡しています。
Satvat氏の推計では、2022年から2026年までにゲーム業界で失われる雇用は合計57,628人に達します。一方、この期間にはほぼ同数の雇用も新たに生まれており、業界全体の規模は大幅に縮小したのではなく、「数千人規模でごく modest に」成長したとしています。大量解雇と雇用創出が同時に起きているため、数字だけを見ると相反するように見えますが、実際には地域ごとの差が大きいというのが同氏の見方です。
2026年に発生したレイオフ事例では、66%が北米で起きており、影響を受けた従業員の79%も北米に集中しています。欧州まで含めると、レイオフ事例の96%を北米と欧州が占めます。つまり、世界全体で雇用環境が一様に悪化しているのではなく、特定の地域、とりわけ北米と西欧の大規模AAAスタジオに被害が偏っています。
Satvat氏は、過去12~18カ月の期間について、世界で発生したレイオフの半数以上がカリフォルニア州に集中していたと推計しています。北米や西欧の伝統的なAAAスタジオにとっては、1983年のゲーム業界大恐慌に匹敵するほどの打撃だとし、「破壊の中心地」になっていると表現しています。
任天堂やカプコンなどで高い人員定着率
一方、日本企業についてSatvat氏は、任天堂だけでなく、コナミやカプコンにも注目すべきだとしています。これらの企業では、スタッフの定着率が97%以上に達しているとのことです。ここで示されているのは各社の採用人数ではなく、在籍する従業員が大規模に流出せず、比較的長く働き続けている状況です。
同氏によれば、日本のゲーム開発チームは一般的に、欧米の大規模AAAスタジオよりも小規模で、組織がスリムです。欧米企業では、ライブサービス型タイトルや超大型作品への投資を背景に、数百人規模の開発チームが編成されるケースがありました。しかし日本企業は、そうした流れに全面的に巻き込まれず、500人規模のチームを前提とする超大型プロジェクトも比較的少なかったと分析されています。
この違いは、単に従業員数が少ないという話にとどまりません。巨大な開発体制を組んだ後、作品の不振や方針転換に合わせて大規模な人員削減を行うリスクを抑えやすい点が重要です。ライブサービス事業や超大型タイトルへの依存度が低ければ、開発計画の変更がそのまま数百人単位の雇用喪失につながる可能性も小さくなります。
ただし、Satvat氏は日本企業が不安定さと無縁だと断定しているわけではありません。日本の企業にも事業環境の変化や個別タイトルの成否による影響はあります。それでも、欧米のAAA市場で見られるような急激かつ広範なレイオフと比較すれば、雇用の維持という面で大きな差があるとしています。
経営陣の報酬体系にも違い
Satvat氏は、日本企業の安定性を考えるうえで、経営陣の報酬にも違いがあると指摘しています。日本のゲーム企業の経営者も十分な報酬を得ているものの、同氏によれば、その水準は200万~300万ドル程度であり、3000万ドルには達しないとのことです。
記事では比較例として、EAの最高経営責任者Andrew Wilson氏の報酬が、同社の中央値にあたる従業員の約305倍だったと紹介されています。報酬の具体額は記事中の表示が欠けていますが、経営トップと一般従業員の間に極めて大きな差があることを示す数字です。一方、同じ時期に任天堂が公表した代表取締役社長・古川俊太郎氏の報酬も例として挙げられていますが、こちらも記事中では具体的な金額が欠落しています。
この差は、経営者が高額報酬を受け取ること自体を問題視するというより、企業がどのような規模と成長を目指すかに関係しています。経営陣の報酬が数千万ドル規模まで膨らむ企業では、投資家や市場から大きな成長を求められやすく、超大型タイトルへの投資や人員拡大が進む場合があります。Satvat氏は、日本企業で見られる比較的抑制された報酬体系が、こうした過度な拡大を避ける要因の1つになっていると見ています。
地域差を踏まえた業界の見通し
大型タイトルの発売や企業買収が相次ぐ一方で、ゲーム業界が数十年ぶりの大規模な不況に向かっているのではないかという懸念は続いています。GTA 6が史上最大級のエンターテインメント作品になると見込まれ、Activision BlizzardやEAのような大手企業をめぐって巨額の買収や売却が行われるなかでも、業界全体では雇用の削減が相次いでいます。
しかし今回のデータは、業界の危機を世界共通の現象として捉えるだけでは不十分だと示しています。北米や西欧の伝統的なAAA開発者にとっては深刻な雇用危機である一方、日本では小規模なチーム、ライブサービス路線への距離、比較的高い従業員定着率といった要素が、急激な人員削減を抑えている可能性があります。
もちろん、日本企業の安定性は、すでに職を失った米国や欧州の開発者にとって直接的な救済にはなりません。それでも、今後のゲーム業界がどのような開発規模や経営モデルを選ぶのかを考えるうえで、地域ごとの違いを確認する材料にはなります。今回の分析は、ゲーム業界全体が一斉に崩れているのではなく、特定の地域と事業モデルに危機が集中しているという見方を示しています。