『GTA 6』をめぐるRockstarの労働審判、31人解雇の理由が争点に
2026年09月11日 | #その他 | Eurogamer
『GTA 6』をめぐる情報管理と、労働組合結成をめざした従業員の解雇が、英国の労働審判で正面から争われています。Rockstar Gamesは機密情報の漏えいにつながる不正行為が解雇理由だと主張する一方、英国独立労働組合(IWGB)は、組合が法的承認に必要な規模へ達した直後に31人を一斉解雇したのは、組合活動を妨げるためだったと訴えています。審理は5週間にわたる見通しで、ゲーム業界における組合活動の扱いを左右する可能性があります。
解雇をめぐる双方の主張
今回の審理は、スコットランド・グラスゴーで始まったRockstar Northの元従業員31人に関するものです。元従業員側を代表するIWGBによると、従業員たちはRockstarの正式な組合をつくり、英国法に基づく承認を得るため、招待制のDiscordサーバーで組織化を進めていました。サーバーでは、組合に関する会合や研修、アンケート、請願、会社への集団的な対応、助言、代表活動などが話し合われていたとしています。
IWGB側は、Discordサーバーがアクセスを制限され、参加者の確認もRockstar社内のSlackを通じて行われていたと説明しています。最大の部屋には約350人が参加していたとされ、この人数についてはRockstar側も認めています。元従業員側は、そこが会社の機密情報を無差別に共有する場ではなく、組合活動のために設けられた場所だったと位置づけています。
一方、Rockstarはサーバー内にジャーナリストや、会社を退職した元従業員がいたと主張しています。会社側は、その元従業員の一部について、会社と良好ではない形で退職しており、Rockstarに損害を与える動機があったとしています。また、サーバー内では会社を侮辱する発言だけでなく、ゲームの機能や発売時期に関する情報も話題になっていたと主張しました。
IWGBは、Rockstarが少なくとも2024年2月から、サーバーに「内通者」を置く形で秘密裏に監視していたと訴えています。IWGBの冒頭陳述によると、Rockstarのサイバーセキュリティ担当者とその内通者の間では、約21か月にわたって数十回に及ぶとされるやり取りが行われていました。さらに、組合員数が法的承認に必要な全従業員の10%へ近づいた2025年10月ごろから、監視や接触が急増したといいます。
元従業員側は、会社が長期間サーバーを監視していたにもかかわらず、10%の基準に到達した直後になって突然、即時解雇に値する問題を見つけたという説明は不自然だと指摘しています。IWGBは、当時の証拠から見れば、Rockstarは「組合が集団的な力を行使できる状態になったため、組合を攻撃した」とみるのが現実的だとしています。
Rockstarが強調する厳格な機密管理
Rockstar側の主張の中心にあるのは、社内に根づいた「機密性の文化」と、本作に対する情報管理の厳しさです。会社側は、開発中の作品が持つ価値と知名度は例外的に高く、機密を守るためにウォール街の銀行のようなセキュリティ体制を採用していると説明しました。秘密の製法を守るコカ・コーラや、技術情報を保護するAppleを例に挙げ、同様に厳しい管理が必要だとしています。
Rockstarによると、オフィスを訪れる人物には秘密保持契約への署名を必須とし、現場に入る請負業者には警備員を同行させています。リモートワークは大幅に制限され、外部ストレージ機器の使用は禁止。写真撮影も厳しく禁じられ、個人のスマートフォン、タブレット、ノートパソコンをRockstarのシステムへ接続することも遮断しているとのことです。
同社は、セキュリティやシステムに対する攻撃が日常的に起きているとも主張しました。オフィスの窓越しに内部を撮影しようとするドローンが使われたため、建物に目隠し用のフィルムを貼ったと説明しています。また、2022年にはフィッシング攻撃が起き、その結果として未完成の開発映像が数十本、社内のSlack上に流出したとしています。こうした事態に対応するため、情報漏えいの可能性を監視・調査する専任チームとして、5人の調査員とディレクターを置いていると述べました。
最近発生したCyberleekによる本作の映像流出にも触れ、Rockstarは、ハッカー集団から脅迫を受けたと主張しています。会社側は、この攻撃が公になった数日間で親会社の株式価値が数十億ドル規模で失われたと説明し、機密管理を重視する姿勢は正当だと訴えました。さらに、作品への関心が非常に高いため、社外から通常では考えにくい水準の監視を受けているともしています。
Rockstarの説明では、部外者が従業員のコーヒーショップへの立ち寄り頻度や、オフィスへ届けられるピザの量まで調べ、社内の状況を推測しようとしていたとされます。2023年に流出した出社回帰計画についても、作品の発売時期に何を意味するのかという憶測を生み、世界的に報道されたと同社は指摘しました。こうした環境では、Discord内で交わされた情報も、単なる雑談では済まされないというのがRockstar側の立場です。
Discordで話されたとされる情報
Rockstarは、Discord内の「内部告発者」が、2023年以降に断片的な情報を送っていたものの、そこで見た内容に強い危機感を抱いて会社へ連絡したと説明しています。その後、Rockstarはサーバーへアクセスし、内部で行われていたやり取りを確認したうえで、急きょ処分に踏み切ったとしています。会社側は、解雇の直接的な原因は組合への敵意ではなく、サーバー上で確認した不正行為によって信頼関係が回復不能なまでに壊れたことだと主張しました。
具体的には、サーバー内に会社を「臆病な企業のクズ」などと呼ぶ発言があり、ほかにも侮辱的な表現が使われていたとしています。Rockstarは、単に会社への不満が書かれていたことだけを問題にしているわけではなく、厳重に管理しているゲーム機能への言及があった点を重視しています。会社の説明では、当時は極めて機密性が高かったオンラインの32人対戦形式について、2人が話していたとのことです。
さらに、正式発表よりかなり前の段階で、発売が2026年秋まで延期される可能性を参加者が推測していたともRockstarは主張しました。会社側は、こうした情報が存在していた以上、Discordの内容を確認した後に処分するのは当然だとしています。元従業員側は、サーバーの主目的が組合活動であり、そこでの発言や情報の扱いが解雇に直結するものだったのかを争うことになります。
Rockstarは、もし本当に2023年から組合を敵視し、組合が10%の基準に達することを恐れていたなら、基準を超えるまで何もしないのは合理的ではないとも反論しました。会社側は、基準到達後の48時間以内に31人を同時に解雇したという経緯を含め、元従業員側の主張を「文字どおり信じがたい」としています。つまり、組合つぶしが目的なら、法的承認を得られる段階まで待つ理由がないという論理です。
これに対してIWGB側は、会社が長期間監視を続けながら処分を見送っていたこと自体が、解雇のタイミングを判断するうえで重要だとみています。組合が人数面で力を持つ直前まで問題が表面化せず、そこから急速に調査と解雇が進んだのであれば、機密保護だけでは説明できない可能性があるという主張です。審判では、Discordへのアクセス経緯、監視の期間、参加者の発言内容、解雇判断が下された時期が詳しく検証されることになります。
審理の今後とゲーム業界への影響
審理の初日には、解雇された元従業員の一部が会場の外に集まり、プラカードを掲げるなどの抗議活動を行いました。元従業員の1人は、Rockstarとの争いを「恐怖との戦い」と表現し、恐怖は人の心や視野を狭め、無力感を抱かせるが、今回の審理は恐怖を本来あるべき位置へ戻す機会だと訴えました。これは元従業員側が、個別の解雇だけでなく、職場で声を上げることへの萎縮効果を問題にしていることを示しています。
今後は提出済みの証拠をもとに、関係者への反対尋問などが進められます。審理は約5週間続く見通しで、最終的な判断が出るまでには、Discordの運用実態やRockstarの情報管理方針、元従業員が共有した内容の性質などが順に検討されます。現時点で、どちらの主張が認められるかは決まっていません。
原文筆者は、この審理について、結果にかかわらずゲーム業界における組合代表のあり方を問う重要な事例だと位置づけています。争点はRockstar Northの31人にとどまらず、ゲーム会社が機密保持を理由に従業員の社外コミュニケーションや組合活動をどこまで制限できるのか、という問題にも広がっています。今回の案件は英国議会にまで届いており、元従業員側が勝訴すれば、ゲーム業界の労働運動にとって歴史的な勝利になる可能性があります。